『ティオの進路（前編）』
ここ数日、ママの様子がおかしい。
なにか考え込んでいたり、料理を失敗したり。今朝もおかずの玉子焼きの味付けを失敗していた。
「ねえ士郎。最近ママの様子おかしくない？」
「うん、僕もそう思った。それにとーさんの様子も変だな」
そう。実はパパの様子も少しおかしい。暇があると道場で座禅をしていたり、そうかと思うと一心不乱に
素振りをしていたり……。
「ティオ〜、士郎ちゃ〜ん、おはよ〜。二人とも遅いよ〜」
「愛美、おはよう」
「おはよ〜、愛美。そんなに遅いかなあ」
「時計見てよ。もうすぐ予鈴鳴っちゃうよ」
愛美に言われて時計を見てみると、いつもよりかなり遅い。
「ホントだ。ごめん愛美」
「話は後で聞くから、急ごう」
「うん」
「ああ」
私たちはあわてて走り出した。
その日の昼休み、私たち（私、士郎、愛美）は屋上でお弁当を広げていた。
「そういえばティオ、士郎ちゃん。今朝はいつもより遅かったけどなにかあったの？」
私は愛美に、最近パパとママの様子がおかしいことを話した。
「ふ〜ん。もしかして恭也さんとフィアッセさん、離婚？」
「「えーーーーー」」
パパとママが離婚？
「ふ、二人とも声大きい」
愛美が耳をふさぎながら文句を言う。
「愛美が変なこと言うから」
「冗談、冗談。考えて見なさい。あの（・・）フィアッセさんと恭也さんが離婚なんてするはずないでしょ？」
「愛美〜」
「言っていいことと悪いことがあるぞ」
「ごめんなさい。考えなしだったわ」
あーびっくりした。パパとママが離婚だなんて。
「でも本当どうしたんだろうね。気になるね〜」
「うん」
「ああ」
「いつころから様子が変わったの？」
「う〜ん。４、５日くらい前かなあ？」
「うん、そのくらい」
「その頃、なにかあった？」
「なにかあったかなあ？」
「そういえばその頃じゃなかったっけ、かーさん宛に電話があったのは？」
「電話？」
「そうよ、その頃よ。ママ宛に電話があったのは。確かイリアさんから」
「イリアさんって、ＣＳＳの？」
「うん。ママに代わって校長のしてくれているって。もしかしてＣＳＳになにかあったのかなあ？」
「その可能性が一番高そうね。まあ何せよ二人が知る必要があるならいつか話してくれるでしょうからそれまで待つか、
どうしても知りたければフィアッセさん達に聞くしかないわね」
「う、うん」
「そうだな」
本当にＣＳＳに何かあったのかな？
気になる。よし、今日思い切って聞いてみよう。
「ただいま〜」
私が帰ると、この時間としては珍しくパパとママがキッチンで話していた。
「お帰り〜、ティオ」
「お帰り」
やっぱり二人とも少し様子が変。ちょうどいいや。パパとママに聞いてみよう。
「ねえ、パパ、ママ」
「なあに、ティオ？」
「どうした？」
「ＣＳＳでなにかあったの？」
「ティオ、どうしてそれを…」
「この間イリアさんから電話があったでしょ？それからママ達の様子が変だったから、もしかしてと思って」
「そっか〜」
「フィアッセ。やはりそろそろ二人に話したほうがいいな」
「そうだね。後は二人の希望を聞いてから決めましょう」
「え、なになに？」
二人の希望？もしかして私と士郎も関係あるの？
「今夜、みんながそろったら話すね」
「う、うん」
「じゃあ、私はお店手伝ってくるね」
「ああ」
「いってらっしゃい、ママ」
「いってきま〜す」
「さて、ティオ。少し打ち合うか？」
「うん♪じゃあ着替えてくるね」
「ああ。道場で待ってる」
夕食後、リビングで食後のお茶を飲んでいると、ママが話し始めた。
「ティオ、士郎。二人に大事な話があります」
き、きた。私と士郎はママの次の言葉を待った。
「あのね、私と恭也ね……。私と恭也、今度の春にイギリスに戻ることになったの」
「「えーー」」
今、なんて言ったの？パパとママがイギリスに戻っちゃう？
「かーさん、どういうこと？スクールになにかあったの？」
「スクールそのものには問題ないんだけどね。スポンサーの何人かがそろそろ五月蝿くなったのと、
あと生徒たちの『私に教えてほしい』って声が大きくなったらしいの」
「元々お前たちが高校を卒業したらイギリスに戻るって約束だったから、スポンサーだけなら何とか説得できるんだが……」
「さすがに生徒たちの声は無視できないからね」
「じゃあ、この間のイリアさんからの電話って」
「うん。一年早く戻ってくれないかってお願い」
「そうだったんだ」
そっか〜、あの電話ってそういうことだったんだ。あれ？でもママだったら、生徒たちの要望ってことだったらすぐＯＫだすと思うんだけど……。
「でもママ。そういうことなら別に悩まなくてもすぐＯＫしてもよかったんじゃない？」
「うん。私たち二人なら別にいいんだけどね」
「俺たちが悩んでいたのは、ティオ、士郎、お前たちのことだ」
「あなた達を連れて行くか、それともこっちに残すか」
「「あっ」」
「あなた達のことを考えるとなかなか言い出せなくて」
「だから、すまないが二人に決めてもらうことにした」
「日本に残るなら今まで通りここから通えばいい。お前たちのおばあ「恭也・・・」桃子かーさんも了承している。
俺たちと一緒に行くなら、向こうのハイスクールに編入することになるな」
「パパ、ママ。そういうこと、そんなに簡単に決められないんだけど…」
「うん、わかってる。でも手続きに時間がかかるから、ここ１．２週間のうちに決めてほしいんだ」
「わかった」
「はい、わかりました」
「すまんな」
「ごめんね、二人とも」
イギリスか〜、遠いなあ……。
後編へ